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原研哉インタビュー 2020プレゼンテーションへ向けて


武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科主任教授の原研哉先生に、今回の「基礎デザイン学科卒業・修了制作展 presentation'20」についてお伺いしました。

イベントに関しての詳しい情報はこちらへ。(卒業・修了制作展Twitter公式アカウント


Interview’20
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科
主任教授
原研哉   

━━今年の卒業制作についての全体的な印象

今年あたりから学生の卒業制作のテーマの捉え方が大きく変わってきた気がしています。僕らはテレビもラジオもオンタイムで視聴してきた世代で、常識も流行も社会の中に通念のようなものがあり、その軸に対して表現があったように思います。デジタルネイティブの世代は、自分たちの興味に対しては果敢にアクセスしていく一方で、興味のない領域に関しては積極的にこれを閉じているのでしょうか。それぞれ、かなり独立独歩な感じがします。「individual」という言葉がありますが「これ以上は分割できない」という意味で「個人」を意味します。まさにこれ以上分断できないところまで個が個として突き詰められてきている時代に皆さんは生きているのかもしれないと感じました。ですから、僕らが育った社会環境でのコミュニケーションの方法を、みなさんにそのまま伝えていっていいのかと悩んだ一年でした。デザインというものは社会の不変項に向き合っていくところがあるため、不変項が見つけにくい状況というのはとても大きなことだと感じました。一方、これ以上分割できないほど分けられてしまった人たちがもう一度繋がる方法、それはシェアというより、コ・デビジュアル(co-dividual)とでもいうべきものかもしれませんが、分割されきった人々が「新しく繋がり直す」ところに新しい関係の構築やデザインのヒントがあるのかもしれないとも思いました。
ちょうど、そのような世代の台頭や世の中の変化の節目に、Covid-19が世界に蔓延したわけです。これは目に見えない巨大な地殻変動が目覚ましい現象となって顕現したようなものです。コロナ禍の数年は、数十年経った後で、世界中の人が何度も振り返り、問い直す、時代の分水嶺になるはずです。だから今、どんなことが起きているのかを目の当たりにしている皆さんには、ぜひともよく観察していただきたい。この劇的な一年に大学四年生という時を過ごしたことを、ポジティブに考えてみてください。そしてこの経験を財産にしてほしい。
今まで当たり前のように対面で出来ていた授業が、今年はできなくなってしまいましたが、教室ではこうして全員の顔を見ながら話はできなかった。やってみるとリモート授業は決して不便ではなかった。テクノロジーがそれを可能にし始めていたのでしょう。
ゼミはゼミ生の個性や性格を把握した上でつきあっていくのが面白いところです。三年生までは、名前や顔は知っていても、どういう性格なのかというところまでは踏み込まない。ゼミの場合は少しその内面に入っていく。夏のゼミ合宿で一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたりするうちに、この人はこんな性格だったんだ、ということが分かってくる。そうなった時に、研究や制作に対する会話が深まってくる。夏の合宿が終わった九月頃は気が緩みがちで、僕はゼミ生に雷を落とすことがあるけれど、この時までにそれをやっても大丈夫な関係が出来上がっている気がします。今年は合宿に行けなかったのでそれが少し遅れてしまいました。ですから今年は原ゼミの場合、一月も二月も続けます。指導の節目として、表題集のテキストを細かく見て添削をします。その時に、論理の組み立てを少しだけお手伝いするわけですが、その段階でみなさん、自分がやりたかったことはこうだったんだと、少し視界が開けるのですね。今年は卒業制作発表が三月なので、視界が開けた後にまだ一ヶ月半くらい制作時間があるわけです。これはぜひ生かしてください。働き方も学習も、世界はこれからリモートになっていきます。この一年が特殊なのではなく、はじまりなのです。リモート会議の普及で、どこででも仕事ができることが明らかになりました。オンライン授業も同じです。ZOOMなどのツールは急速に洗練されて、さらにスムーズに遠隔コミュニケーションができるようになるでしょう。美術大学は手を動かすことを共有する必要があり、対面を重視する先生も多いかもしれません。一方では洗練された教材を使って、猛烈に分かりやすい授業をする先生たちも出てくるでしょう。面着で教えるよりも、リモートの方が習得は早い、ということも今後は急速に起こってくるように思います。
基礎デザイン学科としては、最初にお話しした通り、この状況をポジティブに捉えたいと思っています。この状況をよく観察し、この状況をマイナスと考えない態度で皆さんには過ごしていただきたいです。

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━━今年の卒業生へ送る言葉

どんな状況の中でも前を見てください。 自分の経験を振り返っても、後ろからの順風を受けて盛大に前に進んできたという記憶がありません。社会に出たと同時にバブルが崩壊し、失われた三十年と呼ばれた日本の中で生きてきました。しかしヨットの動きで例えるなら、潮が逆流で風も逆風でも、舵の切り方、帆の角度でジグザグでも前に進める。逆風でも世の中が大きく動いていること自体がエネルギーなのです。今年は濁流が渦巻いている一年ですが、これを糧に前進してほしいですし、荒ぶるエネルギーをどう利用して前に進むのかということを自分なりに考えてほしい。今年は就職も厳しいでしょう。しかしもはや大企業に就職できたら安心という時代や社会ではありません。企業の壁の内側に入らない方が世界が見通せていいこともあります。基礎デザイン学科はみなさんに、自分の仕事や未来を自分で作っていける、万能細胞のような人になってほしいと考えて、カリキュラムを作ってきました。こういう状況であるからこそ、この理念は生きるはずだと考えています。進みにくい時にはもちろん、うずくまっていてもいいのです。しかしそういう思考の芽が、この四年間でみなさんの中にふつふつと育ってきていると信じています。今は確かに大変ですが、どうかこの状況の向こうに見え始めているものに、目を凝らしてください。

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